調査レポート
M&Aディールでの潜在的価値の最大化と創出
5分(読了目安時間)
2025/03/20
調査レポート
5分(読了目安時間)
2025/03/20
近年、魅力的な企業に対する買収及び投資の競争環境が激化しています。事業会社やPEのディールチーム は、各種デューデリジェンスで明らかにしたリスクや発見事項を織り込んだ精緻かつ確信をもった意思決定が迅速に求められています。
先進的テクノロジー、特にAIと最先端の分析ツールは、従来のM&Aディールに変革を起こす可能性を秘めています。これらのツールを導入することで、様々な情報の収集や各業務の効率化を実現し、新たな価値創出が可能です。
多くのディールチームは、テクノロジーの価値を認識しながらも、個別・局所的なニーズに応じた導入にとどまっており、テクノロジーが本来持つ潜在価値を引き出しきれていません。特に、PMIフェーズにおいては、多くの改善・検討の余地があります。課題克服に向けて最も重要なことは、様々なデータやツールを組織的に統合して活用することにあります。
94%
のM&A関係者が、Pre-Dealフェーズのプロセスに改善余地があると回答
82%
のM&A関係者が、Pre-Dealフェーズにおいて、AIや先進的テクノロジーを活用することでインサイトを得ていると回答
7%
のM&A関係者しか、生成AIをM&Aのディールプロセス全体*にわたって活用できていないと回答
* Pre-Deal ~ Deal Execution ~ Post-Deal(PMI)
生成AIをM&Aのディールプロセス全体で活用している企業は、買収後の価値創出を計画通り達成している割合が、活用していない企業と比して4倍高いという調査結果もあります。これは、戦略的・統合的に生成AIをM&Aディールのプロセスで活用することは大幅な価値向上に寄与する可能性を示唆しています。
ディールチームは、過剰とも言える情報の洪水に直面しています。M&Aディールで活用できるデータ、ツール、外部ベンダーの選択肢はかつてないほど多様化していますが、そのことは価値創出にはつながりません。改善余地があるツールも多く、どのベンダーのツールが今後主流となるのか不透明であり、さらに信頼性への懸念も一定程度残っていることは否めないからです。
多様なデータやツールがあることは、M&Aディールの価値創出には寄与していません。
以下の検討事項を自社が抱える課題(規制を除く)の上位3つのうちの1つとして挙げたM&A関係者の割合
M&Aディールのプロセス全体にわたりデジタル戦略を導入している企業はわずか24%にとどまり、多くの企業の焦点はPre-Deal領域に大きく偏重
ディールチームが様々な課題を解決し、卓越した価値創出を実現するために、局所的ではなくM&Aのディールプロセス全体に対してテクノロジーを戦略的に適用するには何が求められるでしょうか?
優れたディールチームが組織的に導入している3つの取り組み:
テクノロジーによる創出価値を期待している企業は多い一方で、M&Aディールのプロセス全体にわたりデジタル戦略を導入している企業はわずか24%にとどまっています。生成AIを導入している企業はさらに少数に限られます。また企業の活用はPre-Deal領域に大きく偏重しています。Pre-Deal領域へ注力する一方で、Post-Deal領域に注力しきれていないことで、潜在的価値最大化と創出の重要な機会を逸している可能性が高いと捉えています。
組織的に導入されたデジタル戦略をM&Aディールのプロセス全体に導入することは価値最大化に不可欠な取り組みとなります。デジタル戦略をプロセス全体に導入している企業のTSR(株主総利回り)は高い傾向にあります。そして組織的に導入している企業が買収後の価値創出に成功している割合はさらに高くなります。
取るべきアクション:
「私たちは、ポートフォリオ企業に対して生成AIの活用を検討しています。具体的には、問い合わせ対応の迅速化やバリューチェーンの効率化など、わかりやすく改善が見えるソリューションを段階的に導入しています。」
— マネジング・ディレクター(某欧州PEファンド)
テクノロジーの導入だけでは、競争優位性を構築することはできません。重要なのは組織的な導入とディールチームへの浸透です。先進的テクノロジーの活用に優れている企業は、ツールや生成AIを継続的な学習エンジンとして導入し、チームが新しいツールを実務で活用できるようトレーニングも含めて組織的に取り組んでいます。全体の84%におよぶ企業が、過去のディールから得たインサイトを適用する点で改善の余地があると認識しています。
取るべきアクション:
「私たちは、買収後のみならず売却後の状況も継続的に検証するプロセスを有することで、同じ過ちの再発防止に取り組んでいます。」
— マネジング・ディレクター(某PEファンド)
次世代テクノロジーは急速に進化しており、完璧なツールを待つ企業は後塵を拝する可能性が高いと捉えています。次世代テクノロジーに先んじている企業は、外部専門家との協業を通じてテクノロジー活用の経験を積み、パイロット導入によって確実に成果を出しています。既存のテクノロジー導入に関する取り組みを「非常に効果的」と評価している企業は全体の31%にとどまり、テクノロジーの組織的な導入・浸透には大幅な改善余地があると捉えられます。
取るべきアクション:
「ビジネスアプリケーションのような通常業務へのテクノロジーの導入時は社内プロセスへの統合に注力すべきです。一方M&Aディールでのテクノロジー導入は、ディール特性に即した最適な外部ソリューションの選択・導入が適切であると考えています。」
— コーポレートデベロップメント責任者(欧州多国籍企業)
先進的テクノロジーのM&Aディールへの活用に先んじている企業は、テクノロジーをデータ処理や業務効率化にとどめていません。ディールにおけるインサイトの導出、ディール実施の意思決定、PMIでの変革実現の可否判断等、潜在価値の最大化と創出を実現するためにテクノロジーを活用しています。
重要なことは変化に対応できるかではなく、変革を自らリードできるか、です。明確なデジタル戦略の策定、的確なテクノロジーの組織への導入と運用体制の構築、そして専門家との戦略的な連携によって、M&Aディールの潜在価値を最大化し、創出することが求められています。